戦いの日々を癒し、支えた美術品たち
“民族資本”を掲げて国際カルテルに対抗し、社長と社員は家族であるという“大家族主義”によって子供を見守る親のように社員に接した出光佐三。常に反骨精神を以て石油事業の新しい地平を切り開いてきたただけに、大きなものを敵に回し、窮地に陥る場面も多々あった。そんなとき、挫けそうになる心を癒し、支えてきたのが、心から惹かれた美術品の数々だったのである。そのコレクションに華美なものは少なく、如何にも日本的な静かな美しさを湛えたものが多く目につく。中でも佐三氏が終生愛して止まなかったのが、故郷である博多で活躍した禅僧、仙厓が描いた素朴な禅画だ。当初は軽妙でユーモアのある絵柄の面白さに惹かれ、やがてはそこに記された禅の教えにも感銘を受けるようになっていったという。その存在の大きさは、美術蒐集の歴史の最初と最後を仙厓が飾ったことからも、窺い知ることができる。

指月布袋画賛 仙厓 江戸時代
布袋さんと子供が上空を指さして微笑んでいるほのぼのとした絵柄に、
「を月様幾ツ 十三七ツ」という戯れ歌が添えられている。
布袋さんと子供が上空を指さして微笑んでいるほのぼのとした絵柄に、
「を月様幾ツ 十三七ツ」という戯れ歌が添えられている。