
漆を乾燥させる工程
漆は完全無欠な塗料
日本の漆芸の歴史は、石器時代にまで遡る。漆はそもそも木の
樹液。誰がそのことに気づいたのか知る由もないが、漆は一度
乾燥すると、水はおろかアルコールも、そして塩酸や硫酸とい
った劇薬に漬けてもびくともしない塗料となる。熱や衝撃に
強く、そして何千年という時間にも耐えうるのだ。漆の主成分
はウルシオールという樹脂分。他に、ずいぶんとゴム質、ラッ
カーゼと呼ばれる酵素を含む。この酵素が空気中の水分から
酸素を取り込み、酸化反応を起こすことによって、ウルシオー
ルは液体から固体に変化する。これが「漆が乾く」という状態
である。つまり、単に乾燥によって固まるのではなく、化学反
応によって長い時間をかけてじっくり固まっていくため、何
物をも通さない完璧な塗料となるのだ。縄文前期の遺跡から
漆塗りの木の器や弓などが出土されていて、中には接着剤と
して使われていたものもある。