

ファサード一面にアラブ文様が施されたパリのアラブ世界
研究所。文様の一つひとつが調光装置であり、時間と気候
に合わせて採光を調節している。Photos by Georges
Fessy
ジャン・ヌーヴェルは1945年、南フランス・フーメル生
まれ。当初は画家志望であったが、その後建築の世界
へ。1970年に建築家としての活動をスタートした彼が
国際的な脚光を浴びたのが、1987年パリにオープンし
たアラブ世界研究所である。セーヌ河岸に立つこの施
設は、ガラスのファサード一面に緻密なアラブ文様が
施され、その社会的な意味を端的に表現している。そ
して中に入ると、大小の文様がカメラの絞りのような
調光装置となっており、外光を巧みにコントロールし
ていることに気づく。建築の持つ芸術性と社会性、機
能性を一致させた建築として、90年代の建築の流れを
決定づけた。またヌーヴェルの最高傑作と名高いパリ
のカルティエ現代美術財団は、建物全体をガラスで覆
われ、輪郭も見失うほど周囲と一体化している。あると
きは空に溶け込み、またあるときは流れる雲を映し、夕
陽に光り輝く。時と見る位置によってその姿も移ろっ
ていく。


建物すべてがガラスで構成されるカルティエ現代美術財
団。周囲に溶け込むほど美しさが際立つ不思議。Photos by
Philippe Ruault